読み終えた、その第一声
読み終えて、感想を一言でまとめようとして——困りました(笑)。
不思議で、少し切なくて、でもどこか怖い。ホラーとミステリーが溶け合ったような読み心地で、色々な感情が混ざり合って、ひとつの言葉に収まってくれない。じめじめとした梅雨の空気みたいに、読み終えたあともまとわりついて離れませんでした。
貴志祐介さんの『梅雨物語』。中編3編を収めた一冊です。今回もネタバレなしで、この”一言にならない”読後感について書いてみます。
どんな短編集?
「皐月闇」「ぼくとう奇譚」「くさびら」の3編を収めた中編集。
3編それぞれに、どこか後ろ暗い”秘密”が潜んでいます。何かが起こり、その裏に隠された事情が少しずつ明らかになっていく——怪異とミステリーが混ざり合った、不思議な手触りの物語たちです。ひんやりとした謎の奥から、時々ふっと切なさや温かさが差し込む。そのバランスが絶妙でした。ここでは、特に心に残った一編を中心に書いてみます。
心に残った一編:「くさびら」
3編の中で、わたしがいちばん惹かれたのは「くさびら」でした。
「くさびら」とは、茸(きのこ)のこと。他の2編がぴりっとした結末に向かってびしりと着地するのに対して、この一編には、少し違う温度がありました。
きのこに詳しい寛子さんという女性が、きのこを通じて、大切なことを伝えようとする——その姿に、じんわりと胸を打たれたんです。怪異の話なのに、その奥から家族の絆のようなものが垣間見えて。怖さだけでは終わらない、人と人の想いのようなものが、きのこという奇妙なモチーフを通して静かに浮かび上がってくる。
ひんやりとした3編の中で、ふっと灯りがともるような一編。だからこそ、いちばん心に残ったのだと思います。
シリーズを読んでいる人へ、ちょっとしたおまけ
ここからは、貴志祐介さんの他のホラー作品を読んでいる人向けの、ちょっとした余談です。
この作品にも、シリーズを横断して読むと「あっ」となる人物が登場します。作品をまたいで読むほど、その存在の奥行きがじわじわ見えてくる——そういう仕掛けが、貴志ホラーにはあると思います。作品を横断して読むと、思わず「この人、いったい何者……?」とツッコミたくなる瞬間も(笑)。
こんな人におすすめ
- 怪異とミステリーが混ざり合った、不思議な読み心地を味わいたい人
- ひんやりした謎解きの奥に、切なさや人間の温もりを見つけたい人
- じめじめとした梅雨の夜に、静かに浸れる物語を探している人
一編ずつ独立しているので、雨の夜に一話ずつ読み進めるのにぴったりの一冊です。
まとめ
一言では言い表せない——それが、読み終えたいちばん正直な感想でした。
怖くて、切なくて、少しだけ温かい。梅雨の雨のように、いろいろな感情がまとわりついて、読み終えたあともしばらく心に残る。そんな三つの物語でした。


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