
こんにちは、遊華です。今回は「しっとり染みる」短編ホラー、貴志祐介さんの『秋雨物語』を紹介します
読み終えた、その第一声
読み終えて残ったのは、「怖かった」よりも——「しっとりした」でした。
もちろん、ぞくりとする場面はあります。でもトータルで振り返ると、派手に驚かせてくるというより、秋の雨みたいに、じっとりと静かに染み込んでくる。そういう読後感の短編集でした。
今回もネタバレなしで、この湿度のある怖さについて書いてみます。
どんな短編集?
4編を収めた短編集です。一編ごとに毛色は違うのですが、全体を通して流れているのは、じっとりと湿った、落ち着いた不気味さ。血湧き肉躍る恐怖ではなく、読み終えたあとにひたひたと残っていくタイプの怖さ、と言えばいいでしょうか。
派手なホラーが読みたい夜より、静かな秋の夜長に、ページをめくりながらじわじわ浸かりたい——そんな一冊です。ここでは、特に心に残った2編について書いてみます。
貴志祐介ーー1959年大阪府生まれ。京都大学経済学部卒業。1996年、日本ホラー小説大賞長編賞佳作を受賞した「ISOLA」が『十三番目の人格ISOLA』と改題後、刊行される。1997年『黒い家』で第4回日本ホラー小説大賞を受賞。2005年『硝子のハンマー』で第58回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)受賞。2008年『新世界より』で日本SF大賞、2010年『悪の教典』で山田風太郎賞を受賞。他の著書に『クリムゾンの迷宮』、『青の炎』、『鍵のかかった部屋』、『雀蜂』などがある。(新潮文庫より)
心に残った2編
「こっくりさん」——怖さの奥に、人間がいる
子どもの頃、誰もが一度は名前を聞いたことのある「こっくりさん」。その、いわば”闇バージョン”とも言うべき一編です。
でもこの話が上手いのは、ただ怖いだけで終わらないところ。こっくりさんに手を出すのは、人生に行き詰まった人たちなんです。逆転を願って。希望を求めて。やってはいけないと、どこかでわかっている。それでも、すがらずにはいられない——その姿が、怖いのに、どうしようもなく人間らしくて。
禁忌に手を伸ばす指の、その切実さ。怪異の怖さと、人間の哀しさが同じ場所にあって、読み終えたあとも妙に心に残りました。
「フーグ」——不思議としか、言いようがない
こちらは、まったく毛色の違う怖さ。
一言で説明するのが難しいんです。因果がはっきりしているわけでも、わかりやすい怪異が出てくるわけでもない。ただ、読んでいるうちに足元がゆらいでいくような、”分類できない”不安。「不思議としか言いようがない」——読み終えた率直な感想が、それでした。理屈で片付かないからこそ、じわじわ怖い。
ちなみに
作中に霊能者が登場する場面があるのですが、はっきりとは明かされません。ですが、「あれ、この人、もしかして……?」と、どこかで見た面影を感じさせる描写がありました。貴志作品を何冊か読んでいる人なら、分かるかもしれません。
こんな人におすすめ
- 派手に驚かせる恐怖より、じわじわ染みる”しっとりした怖さ”が好きな人
- 短編集で、いろんな味の怪異を少しずつ味わいたい人
- 怪異の奥にある「人間」を読みたい人
一編ずつ独立しているので、寝る前に一話ずつ、秋の夜長に読み進めるのにぴったりです。
まとめ
読み終えて残るのは、恐怖の悲鳴ではなく、しっとりとした余韻。秋の雨のように、静かに染み込んでくる怪異たちでした。
怖いだけじゃない、どこか物哀しい。そんな怪談を、雨の夜に浴びたい人へ。



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