『秋雨物語』感想|秋の夜長にしっとり染みる短編ホラー【ネタバレなし】

読書感想

読み終えた、その第一声

読み終えて残ったのは、「怖かった」よりも——「しっとりした」でした。

もちろん、ぞくりとする場面はあります。でもトータルで振り返ると、派手に驚かせてくるというより、秋の雨みたいに、じっとりと静かに染み込んでくる。そういう読後感の短編集でした。

貴志祐介さんの『秋雨物語』。今回もネタバレなしで、この湿度のある怖さについて書いてみます。


どんな短編集?

4編を収めた短編集です。一編ごとに毛色は違うのですが、全体を通して流れているのは、じっとりと湿った、落ち着いた不気味さ。血湧き肉躍る恐怖ではなく、読み終えたあとにひたひたと残っていくタイプの怖さ、と言えばいいでしょうか。

派手なホラーが読みたい夜より、静かな秋の夜長に、ページをめくりながらじわじわ浸かりたい——そんな一冊です。ここでは、特に心に残った2編について書いてみます。


心に残った2編

「こっくりさん」——怖さの奥に、人間がいる

子どもの頃、誰もが一度は名前を聞いたことのある「こっくりさん」。その、いわば”闇バージョン”とも言うべき一編です。

でもこの話が上手いのは、ただ怖いだけで終わらないところ。こっくりさんに手を出すのは、人生に行き詰まった人たちなんです。逆転を願って。希望を求めて。やってはいけないと、どこかでわかっている。それでも、すがらずにはいられない——その姿が、怖いのに、どうしようもなく人間らしくて。

禁忌に手を伸ばす指の、その切実さ。怪異の怖さと、人間の哀しさが同じ場所にあって、読み終えたあとも妙に心に残りました。

「フーグ」——不思議としか、言いようがない

こちらは、まったく毛色の違う怖さ。

一言で説明するのが難しいんです。因果がはっきりしているわけでも、わかりやすい怪異が出てくるわけでもない。ただ、読んでいるうちに足元がゆらいでいくような、”分類できない”不安。「不思議としか言いようがない」——読み終えた率直な感想が、それでした。理屈で片付かないからこそ、じわじわ怖い。


ちなみに

作中に霊能者が登場する場面があるのですが、はっきりとは明かされません。ですが、「あれ、この人、もしかして……?」と、どこかで見た面影を感じさせる描写がありました。貴志作品を何冊か読んでいる人なら、分かるかもしれません。


こんな人におすすめ

  • 派手に驚かせる恐怖より、じわじわ染みる”しっとりした怖さ”が好きな人
  • 短編集で、いろんな味の怪異を少しずつ味わいたい人
  • 怪異の奥にある「人間」を読みたい人

一編ずつ独立しているので、寝る前に一話ずつ、秋の夜長に読み進めるのにぴったりです。


まとめ

読み終えて残るのは、恐怖の悲鳴ではなく、しっとりとした余韻。秋の雨のように、静かに染み込んでくる怪異たちでした。

怖いだけじゃない、どこか物哀しい。そんな怪談を、雨の夜に浴びたい人へ。

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