『文豪は鬼子と綴る』感想|変人文豪と大人びた少年の大正怪奇譚【ネタバレなし】

嗣人

こんにちは、遊華です。今回は大正の帝都を舞台にした怪奇譚、嗣人さんの『文豪は鬼子と綴る』を紹介します。

嗣人さんの『文豪は鬼子と綴る』を読み終えました。大正時代の博多を舞台にした、怪奇譚です。

この記事では、物語の核心には一切触れず、ネタバレなしでこの本の魅力をお伝えします。和風の怪奇ものが好きな方、キャラクターの掛け合いをじっくり味わいたい方へ向けた感想です。

はじめに

大正の博多。ガチャガチャと賑やかな日常のすぐ隣に、怪異がひそんでいる。 人づての噂話から、物語は始まっていく。

白状すると、私はこの本を読み終える少し前に、もう続編をポチっていた。 最後まで読んでもいないのに、確信していたのだ。 ——この二人のタッグを、もっと見ていたい。 この大正の空気を、まだ吸っていたい、と。

『文豪は鬼子と綴る』ってどんな本?

舞台は大正時代の博多。ガチャガチャと賑やかな街の暮らしの中に、怪異にまつわる噂話が流れ込んでくる。呪物、巫女、神社——そんな和の怪しさが絡み合う、大正怪奇譚です。

主人公は、瀬戸春彦。「鬼子」と呼ばれる見た目のせいで、いろいろなものを背負ってきた少年です。けれど中身は、14歳とは思えないほど大人びていて、賢い。実際、名門・修猷館に通う秀才です。基本は平和主義、ただし、やるときはやる。なんでもそこそこできてしまう、器用貧乏なところもあります。

物語は、春彦が父のお使いで、ある作家の屋敷へ原稿を取りに行くところから始まります。その作家が、香月蓮。屋敷にこもりきりの文豪で、作家のわりに、なぜか金回りがいい。体はめっぽう弱い。そして——かなりの変人です。

この蓮が、春彦をいたく気に入ってしまい、助手にしてしまう。かくして、「鬼子」と呼ばれた少年と、謎多き変人文豪という不揃いなコンビが、博多の街にひそむ怪異へと足を踏み入れていくことになります。

ちなみに著者は嗣人さん。私は別の作品でこの方の書くものが好きになり、いわば“作者買い”でこの本を手に取りました。その判断は、正解でした。

~著者について~

嗣人
熊本県荒尾市出身、福岡県在住。温泉県にある大学の文学部史学科を卒業。在学中は民俗学研究室に所属。2010年よりWeb上で夜行堂奇譚を執筆中。妻と娘2人と暮らす。著作に『夜行堂奇譚』『木山千景ノ怪顧録』『穂束栞は夜を視る』『カナエトメイ 怪奇専門探偵事務所』『天神さまの花いちもんめ』(産業編集センター)、『文豪は鬼子と綴る』(竹書房)など。(BOOKデータベースより)

【ネタバレなし】この二人を、もっと見ていたい

この本のいちばんの魅力は、事件でも怪異でもなく——二人です。

変人で、虚弱で、なぜか金回りのいい文豪・蓮。振り回される側の春彦は、14歳ながら妙に大人びていて、変人相手にも動じない。冷静に、的確に、言うべきことははっきり言う。ときには容赦のないツッコミも入る。大人と少年なのに対等——というか、むしろ少年のほうがしっかりしている場面すらあります。このやり取りの温度が、読んでいて本当に心地いいんです。

読み終える少し前に続編をポチったのは、謎の続きが気になったからではありません。この二人のタッグを、もっと見ていたかったからです。

そしてもうひとつ、忘れられないのが、物語の中で描かれるある姉妹のエピソード。詳しくは書けませんが——正直に言うと、展開そのものは「ああ、こういう流れか」と、途中で読めてしまいました。王道といえば王道かもしれない。

それなのに、読み終えたとき、静かに「ああ……」と息が漏れたんです。 予想できていたのに、沁みた。これって、展開の意外性ではなく、描き方の力なんだと思います。分かっていても、ちゃんと胸に来る。そういう筆を書ける作家さんです。

賑やかな大正博多の空気、和の怪しさ、不揃いな二人、そして静かに沁みる情。派手にひっくり返す物語ではないけれど、読み終えたあと、この世界にもう少し居たくなる——そんな一冊でした。

こんな人におすすめ

『文豪は鬼子と綴る』は、こんな人にぜひ読んでほしい一冊です。

  • キャラクターの掛け合いを楽しみたい人(変人文豪×大人びた少年の温度感は、この作品ならでは)
  • 和風の怪奇もの、あやかしや呪いの雰囲気が好きな人(呪物・巫女・神社——和の怪しさがたっぷり)
  • 大正時代の空気が好きな人(賑やかな博多の街並みごと、味わえます)

派手などんでん返しを求める人には向かないかもしれません。でも、キャラと世界観にじっくり浸って、最後に静かに沁みる読書がしたい人には、まちがいなくおすすめです。

まとめ

ミステリを立て続けに読んできた私にとって、この本はいい意味で“別の場所”でした。驚かされるのではなく、浸る。ひっくり返されるのではなく、沁みる。

読み終える前に続編をポチっていた時点で、私の答えは出ています。 大正博多の賑わいの中、あの不揃いな二人が次はどんな怪異と向き合うのか——続編の感想も、どうぞご期待ください。

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