
こんにちは、遊華です。今回は「足元が怖くなる」現代ホラー、冲方丁さんの『骨灰』をご紹介します。
読み終えた、その第一声
わたしたちが今立っているこの地面の下にも、かつて誰かがいた——。
読み終えたあと、そんな当たり前のことが、急に生々しく迫ってきました。人は、死体の上に立って暮らしている。そう言われて、なぜか妙に腑に落ちてしまったんです。
今回もネタバレなしで書いてみます。
どんな話?
主人公は、大手デベロッパーのIR部に勤める会社員・松永光弘。
彼が向かったのは、自社が手がける渋谷の高層ビル建設現場でした。目的は、SNSに投稿された不穏な書き込みの真偽を確かめること——「火が出た」「いるだけで病気になる」「人骨が出た」。
薄暗い地下へ降りていく光弘。異様に乾いた空気。喉の渇き。そして、図面には記されていない場所に、なぜか神棚があって——。
東京の地下に眠るものと、そこに触れてしまった一人の男と家族の物語です。
冲方丁—— 1977年岐阜県生まれ。1996年『黒い季節』で角川スニーカー大賞金賞を受賞しデビュー。2003年『マルドゥック・スクランブル』で第24回日本SF大賞、2010年『天地明察』で第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞、第4回舟橋聖一文学賞、第7回北東文学賞、2012年『光圀伝』で第3回山田風太郎賞を受賞。主な著書に『十二人の死にたい子どもたち』『戦の国』『剣樹抄』『麒麟児』『アクティベイター』などがある。(「BOOK」データベースより)
何がそんなに怖いのか
じわじわと、侵食される
この作品の怖さは、驚かせてくるタイプではありません。
はっきりした怪異が襲いかかってくるわけでもない。ただ、得体の知れない何かが、少しずつ日常に染み込んでくる。喉が渇く。何かが焦げたような臭いがする。おかしなことが、少しずつ増えていく。
気づいたときには、もう深く侵されている。逃げる場所も、逃げるべきタイミングも、わからないまま。このじわじわ感が、本当に厭でした(褒めています)。
いちばん怖いのは、本人が疑わないこと
この物語で本当に厭だったのは、おかしなことが、おかしなまま通ってしまうことでした。
明らかに異常なはずなのに、当人はそれを受け入れて、平然と話を進めていく。理屈は通っている——無理やりだけれど、通ってしまっている。読んでいるこちらだけが「いや、それはおかしい」と思っているのに、その声はどこにも届かない。
怪異に襲われる恐怖より、目の前の人が、少しずつ違うものになっていくのを見ている恐怖のほうが、ずっと厭でした。しかもそれは、本人ひとりの問題では済まなくなっていきます。
現代の街の、その下
そしてこの作品がいちばん怖いのは、舞台が渋谷だということ。
最新の高層ビルが建ち、人が行き交う、誰もが知っている街。その足元を掘り返したとき、そこに何が眠っていたのか——。
再開発が進めば進むほど、地面は掘られていく。新しいものが建つということは、古い何かの上に建つということでもある。作中で光弘が降りていく地下は、そのまま時間を遡っていくような感覚でした。
読み終えてから街を歩くと、少しだけ足元が気になります。ここには、何があったんだろう、と。
こんな人におすすめ
- 派手に驚かせる恐怖より、じわじわ侵食される怖さが好きな人
- 現代の都市を舞台にしたモダンホラーを読みたい人
- 読み終えたあとも、じっとりと残る作品を探している人
ページ数はそれなりにありますが、後半は一気に読まされます。
まとめ
わたしたちは、誰かがいた場所の上で暮らしている——読み終えて残ったのは、その感覚でした。
怖いだけでなく、どこか納得してしまう。そういう手触りの一冊です。読み終えたあと、街の見え方が少しだけ変わるかもしれません。


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