『さかさ星』感想|解くほど怖い、貴志祐介の呪物ホラー【ネタバレなし】

読書感想

こんにちは、遊華です。今回は「解くほど怖い」呪物ホラー、貴志祐介さんの『さかさ星』を紹介します。

読み終えた、その第一声

読み終えて、まず口をついて出たのは——「久しぶりに、ゾッとした」でした。

貴志祐介さんの『さかさ星』。ミステリの「明かされる怖さ」とはまた違う、背中のうしろからじわりと這い上がってくるような感覚。読み終えてしばらく、部屋の隅がなんだか気になってしまいました。

しかもそれは、読み終えた瞬間だけの話ではありません。話が進むたびに、何度も「ゾッ」とさせられる。そういう読書でした。

これまで読んできたどのミステリとも毛色の違う“怖さ”。今回もネタバレなしで、その正体をできるだけ言葉にしてみます。

どんな話?

戦国時代から続く旧家・福森家。その屋敷で、一家四人が惨殺される事件が起きます。遺体はどれも人間離れした手口で壊されていて、屋敷には儀式のような痕跡が残されていた——。

福森家の親戚にあたる心霊系ユーチューバーの青年が、祖母に付き添って事件直後の屋敷に足を踏み入れるところから、物語は動き出します。同行するのは、霊能者の賀茂禮子。彼女いわく、この屋敷を埋め尽くす名品・名宝の数々は、実は恐るべき“呪物”であり、そのどれかひとつが事件を引き起こしたのだといいます。

庭に植えられた忌木、屋根の鬼瓦、そして——上下逆さまにされた大黒柱。タイトルの「さかさ」は、そんな“何かが裏返った”屋敷の異様さを指しているようでもあります。

~著者について~

貴志祐介ーー1959年大阪府生まれ。京都大学経済学部卒業。1996年、日本ホラー小説大賞長編賞佳作を受賞した「ISOLA」が『十三番目の人格ISOLA』と改題後、刊行される。1997年『黒い家』で第4回日本ホラー小説大賞を受賞。2005年『硝子のハンマー』で第58回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)受賞。2008年『新世界より』で日本SF大賞、2010年『悪の教典』で山田風太郎賞を受賞。他の著書に『クリムゾンの迷宮』、『青の炎』、『鍵のかかった部屋』、『雀蜂』などがある。(新潮文庫より)

読みどころ:解くほど、怖くなる

ふつうミステリって、謎が解けると胸がスッと軽くなりますよね。でも『さかさ星』は、逆でした。

呪物の正体に近づけば近づくほど、こちらの息が苦しくなっていくんです。

というのも、屋敷にあるひとつひとつの呪物には、それぞれおぞましい“来歴”が張りついている。その由来を掘り下げていくたびに、「モノそのものの不気味さ」に「背後の悲惨さ」が積み重なっていく。犯人は誰か、ではなく——どの呪物が原因なのか。その謎を追う行為そのものが、まるで呪いに手を伸ばしていくようで、ページをめくる指が止まりませんでした。

しかもこの作品、呪物には善いものと悪いものがあって、ベクトルが逆だと互いに打ち消し合う、という発想が出てきます。「そんなことある!?」と、思わず前のめりになりました。祟られるのをただ怖がるだけじゃなく、“どの呪物にどの呪物をぶつけるか”というパズルみたいな面白さもあるんです。ホラーなのに、頭を使う。

でも、その攻略のためには結局、呪物の来歴を知らなければいけない。つまり——攻略しようとするほど、怖い話に触れてしまう。この「面白さ」と「怖さ」が同じ一本の線でつながっているのが、『さかさ星』のいちばんの発明だと感じました。

しかも、この屋敷で唯一の頼みの綱になるはずの賀茂禮子でさえ、一瞬「この人、信じていいの……?」と思ってしまう場面がありました。足場だと思っていたところが、ふっと揺らぐ感覚。逃げ場が、じわじわとなくなっていきます。

そして個人的にいちばんゾッとしたのは、実在する“退魔の刀”までもが呪物として登場すること。本来は魔を祓うはずの聖なるものすら、この屋敷では裏返ってしまう。逆さの大黒柱と同じで、まっとうなもの・守るはずのものが、ことごとく禍々しさに呑まれていく——その“反転”こそが、じわじわと効いてくる怖さの源だった気がします。

『花束は毒』との違い

同じ“不穏”でも、以前このブログで紹介した『花束は毒』とは、怖さの質が違いました。

わたしなりに整理すると——『花束は毒』は「人の作為」の怖さ。誰かが意図して仕込んだものの怖さ。いっぽう『さかさ星』は「モノに宿った怨念」の怖さ。人の意図の外にある、もっと得体の知れないもの。

だから同じ背筋の冷たさでも、肌ざわりがまるで違うんです。どちらが上ということではなく、“怖い”にもこんなに種類があるんだなと、あらためて思いました。


こんな人におすすめ

  • 生理的にゾッとする一冊を読みたい人
  • じっくり読み応えのある長編ホラーにどっぷり浸かりたい人
  • 呪物・いわくつきの品・和風の怪異に、ゾクッとくる人

逆に、短くサクッと怖い話が読みたい人には、600ページ超という厚みは少し長く感じるかもしれません。じっくり腰を据えて浸かりたい夜に、おすすめの一冊です。


まとめ

読み終えてしばらく経っても、あの屋敷の“逆さ”の感覚がなかなか抜けません。久しぶりに、ゾッとした。……その一言に尽きる読書体験でした。

怖いだけじゃなく、頭も使う。祟りと謎解きが同じ場所でつながっている、贅沢な一冊です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました