『文豪は鬼子と綴る 弐 幻想列車編』感想|噂を追う二人の大正怪奇譚【ネタバレなし】

嗣人

こんにちは、遊華です。「文豪は鬼子と綴る」シリーズ第2弾、嗣人さんの『幻想列車編』を紹介します。

嗣人さんの『文豪は鬼子と綴る 幻想列車編』を読み終えました。変人文豪・香月蓮と、「鬼子」と呼ばれた少年・瀬戸春彦のコンビが帰ってくる、シリーズ第2作です。

この記事では、物語の核心には一切触れず、ネタバレなしでこの本の魅力をお伝えします。1作目を読んで続きが気になっている方、じっくり浸れる怪奇譚を探している方へ向けた感想です。

はじめに

読み終える前に続編をポチった——前作の感想で、私はそう書いた。 では、その続編はどうだったのか。

あの二人の掛け合いは、今回も楽しい。なのに、読み終えたあとに残ったのは、楽しさだけじゃなかった。 静かで、少し切ない何かが、胸の奥に沈んでいる。

そして思った。このシリーズは、最後まで見届けたい、と。

~著者について~

嗣人
熊本県荒尾市出身、福岡県在住。温泉県にある大学の文学部史学科を卒業。在学中は民俗学研究室に所属。2010年よりWeb上で夜行堂奇譚を執筆中。妻と娘2人と暮らす。著作に『夜行堂奇譚』『木山千景ノ怪顧録』『穂束栞は夜を視る』『カナエトメイ 怪奇専門探偵事務所』『天神さまの花いちもんめ』(産業編集センター)、『文豪は鬼子と綴る』(竹書房)など。(BOOKデータベースより)

『幻想列車編』ってどんな話?(※1作目のネタバレはありません)

本作『文豪は鬼子と綴る 幻想列車編』は、『文豪は鬼子と綴る』の続編。大正の博多を舞台に、変人文豪・香月蓮と、「鬼子」と呼ばれた少年・瀬戸春彦のコンビが、ふたたび怪異へと踏み込んでいきます。

二人の関係や世界観については、1作目の感想で詳しく書いたので、こちらをどうぞ↓↓

『文豪は鬼子と綴る』感想|変人文豪と大人びた少年の大正怪奇譚【ネタバレなし】
嗣人さんの『文豪は鬼子と綴る』のネタバレなし感想。大正の博多を舞台にした怪奇譚と、この二人をもっと見ていたくなる関係の魅力を紹介します。

今作の鍵になるのは“列車”。街に流れるのは、あるはずのない列車の噂——今回も物語は、人づての噂話から始まります。この「噂から怪異へ」という入り方、1作目から変わらないこのシリーズの様式で、私はけっこう好きです。

発端は、香月の無茶振り。「この世の不可思議なるものを見つけてこい」と、春彦をこき使うところからはじまります。そこに、香月を追いかける新聞記者など新しい顔ぶれも絡んできて、物語はあの幻の列車へと向かっていきます。

そしてこの幻想列車、ただ不気味なだけの怪異ではありません。その正体を知ったとき、あなたはきっと、この列車を少しだけ違う目で見ることになる——とだけ、言っておきます。

今作で注目したいのは、二つ。

ひとつは、あの香月蓮の“秘密”の一端が、ついに明かされること。1作目からずっと匂わされてきた、あの変人文豪が抱えているもの。「なんとなく、こういうことかな」と想像していましたが、実際に語られるその中身には驚くはずです。私は、予想していた方向のまま、予想を超えるスケールでやられました。

もうひとつは——これは読んでからのお楽しみ。ただ、1作目とは少し違う“重さ”が、この物語にはあります。

【ネタバレなし】敵にすら、「哀れだな」と思ってしまった

この物語の感想を、どう書けばいいのか。少し迷いました。1作目のときのように「二人のタッグが最高!」と、まっすぐな楽しさだけを語れる巻ではなかったからです。

もちろん、香月と春彦のやり取りは今回も健在です。読んでいて、ふっと息が抜ける。でも——読み終えたあと、私の中に残っていたのは、意外な感情でした。

「……哀れな人だったな」

読み終えて残ったのは、怒りでも恐怖でもなく、この一言でした。

この物語の裏側には、ある人物がいます。詳しくは書けません。ただ——その人が抱えていたものを知ったとき、私の中に浮かんだのは「憎い」でも「怖い」でもなく、ただ「哀れだ」という気持ちでした。

望んで、そうなったわけじゃない。願って、それでも届かなかった。その果てに、今回の怪異がある——とだけ、言わせてください。

幻想列車の謎を追いかけていたはずが、気づけば、一人の人間の哀しみを見つめていました。読み終えたとき、胸に残るのは謎が解けた爽快感ではなく、静かなやるせなさです。

そしてもうひとつ。香月の秘密。1作目から「この人、何か抱えてるな」と感じていたのなら、方向性はなんとなく想像がつくかもしれません。私も、していました。でも——実際に明かされたそれは、予想していた方向のまま、予想のはるか上のスケールでした。「そういうことか」と「そこまでなのか」が同時に来る感覚。この驚き方は、なかなか味わえません。

そして、香月だけではありません。今作は、春彦にとっても、忘れられない物語になるはずです。何があるかは——どうか、ご自身の目で。

楽しい掛け合いの奥に、静かに沈んでいく哀しみ。1作目より、確実に深いところへ連れて行かれる一冊でした。

こんな人におすすめ

『文豪は鬼子と綴る 幻想列車編』は、こんな人にぜひ読んでほしい一冊です。

  • 1作目を読んで、あの二人をもっと見たくなった人(掛け合いは健在。そして今作は、二人それぞれに“深い”ものがあります)
  • ただ怖いだけじゃない怪異譚が読みたい人
  • 切ない余韻の残る物語が好きな人(読後、静かなやるせなさが胸に残ります)

なお、本作は続編です。香月と春彦の関係、そして1作目から続く“匂わせ”があるので、必ず1作目から読んでください

楽しい掛け合いを追いかけていたはずが、気づけば、深い哀しみの物語を読んでいた。 1作目で「もっと見たい」と思ったこのシリーズは、2作目で「最後まで見届けたい」に変わりました。

あの幻想列車が、なぜ走るのか。その答えを知ったとき、あなたの胸に何が残るのか——それは、ぜひご自身で確かめてください。

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