
こんにちは、遊華です。今回は、今村昌弘さんの『屍人荘の殺人』、ネタバレなしで紹介します。※この記事では、作中にゾンビが登場することには触れています。何も知らずに読みたい方はご注意ください。
読み終えた感想
『屍人荘の殺人』は、ミステリのランキングを総なめにしたことで知られる一冊です。ずっと気になっていて、いつか読みたいと思っていました。
読んでいるあいだは、正直ワクワクしかありませんでした。真相が気になって気になって、ページをめくる手が止まらない。
なのに、読み終えて最初に浮かんだのは、この一言でした。
どこか切ない。
謎が解けたすっきり感よりも先に、静かな切なさが胸に残る。そんな読後感の本でした。
『屍人荘の殺人』はどんな小説?
神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲は、自称探偵の会長・明智恭介に連れられて、映画研究部の夏合宿に参加することになります。そこに加わるのが、同じ大学の探偵少女・剣崎比留子。
合宿の舞台はペンション「紫湛荘」。ところが一日目の夜、一行は思いもよらない事態に巻き込まれ、ペンションに立てこもるしかなくなります。そして閉ざされた建物のなかで、殺人事件が起きる——。
2017年に第27回鮎川哲也賞を受賞した今村さんのデビュー作で、『このミステリーがすごい!』『週刊文春ミステリーベスト10』『本格ミステリ・ベスト10』の3つのランキングで1位を獲得しました。
今村昌弘――1985年長崎県生まれ。岡山大学卒。兵庫県在住。2017年『屍人荘の殺人』で第27回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。同作は『このミステリーがすごい!2018年版』、〈週刊文春〉2017年ミステリーベスト10、『2018本格ミステリ・ベスト10』で第1位を獲得し、第18回本格ミステリ大賞[小説部門]を受賞、第15回本屋大賞第3位に選ばれるなど、高く評価される。シリーズ第2弾『魔眼の匣の殺人』、第3弾『兇人邸の殺人』も各ミステリランキングでベスト3に連続ランクイン。2021年テレビドラマ『ネメシス』に脚本協力として参加。他の著書に『でぃすぺる』『明智恭介の奔走』がある。(今村昌弘『0秒前の彼女』特設サイトより)
「ゾンビ×本格ミステリ」という特殊設定
この作品の大きな特徴は、ゾンビが登場することです。
ペンションの外にはゾンビがいて、出ることができない。その状況のなかで、本格的な謎解きが進んでいきます。
ゾンビと聞くとホラーやパニックものを想像するかもしれません。でも、この作品の芯はあくまで本格ミステリです。現実にはありえない設定を、謎解きのルールとしてきちんと組み込んでいる。だから突飛な設定なのに、推理はとてもフェアに感じられました。
設定がどう謎に関わってくるのかは、ぜひ読んで確かめてください。
実際に読んで感じた面白さ
とにかく、真相が気になりすぎる。読んでいるあいだの気持ちは、これに尽きます。
閉じ込められた状況で、何が起きているのか、誰が何をしたのか。手がかりが少しずつ見えてくるたびに、早く答えが知りたくなる。怖さよりも、ワクワクのほうがずっと大きかったです。
そして、そのワクワクの先に待っていたのが、あの切なさでした。夢中で読み進めたぶん、最後に残ったものとの落差が大きくて、余韻が長く続きました。
キャラクターについて
語り手の葉村は、ミステリ愛好会の一員。彼を合宿に連れ出したのが、会長であり自称探偵の明智です。物語は、この二人が合宿に参加するところから動き出します。
剣崎比留子について印象に残ったのは、彼女が「探偵」という立場にいる理由です。
彼女は、そうせざるを得ない事情を抱えている。その事情を知ったとき、彼女の推理の見え方が少し変わりました。
結末の切なさと、比留子の抱えているもの。どちらも「望んでそうなったわけではない」という手触りがあって、読み終えたあとに二つが重なって残りました。
クローズドサークルとしての魅力
外の世界から切り離された場所で、限られた人たちのなかで事件が起きる。クローズドサークルは本格ミステリの王道の舞台です。
この作品では、その「閉ざされている理由」がゾンビです。嵐や雪で道がふさがれるのとは違い、外にいるのは襲ってくる存在。逃げ場がないという緊張感が、ずっと続きます。
王道の舞台に、まったく新しい理由を持ち込んだ。それが、この作品が話題になった理由のひとつだと思います。
どんな人におすすめ?
- 本格ミステリが好きな人
- クローズドサークルものが好きな人
- 謎解きのあとの余韻まで味わいたい人
怖い?グロい?
ゾンビものなので、襲われる場面や血の描写はあります。ただ、感じたのはあくまでミステリらしい怖さやグロさで、個人的にそこまで強烈なものではありませんでした。読んでいるあいだはワクワクのほうがずっと勝っていて、怖くて読み進められない、ということはなかったです。
ホラーとして身構えるより、ミステリとして楽しむ気持ちで読むのがちょうどいいと思います。
シリーズの読む順番
- 『屍人荘の殺人』
- 『魔眼の匣の殺人』
- 『兇人邸の殺人』
『屍人荘の殺人』で残された謎は、シリーズとして続いていきます。比留子と葉村のその後も気になるので、続きもぜひ。
メディア展開
映画『屍人荘の殺人』
2019年12月13日に公開されました。監督は『ATARU』シリーズなどで知られる木村ひさしさん。葉村譲を神木隆之介さん、剣崎比留子を浜辺美波さん、明智恭介を中村倫也さんが演じています。主題歌はPerfumeです。
私はまだ映画は観ていないのですが、コミカルな演出に定評のある監督の作品ということもあり、原作よりも笑いの多い仕上がりになっているそうです。原作では映画研究部の夏合宿に合流しますが、映画では音楽フェスに合流する形に変わっているなど、設定にもアレンジがあるようです。原作との違いを確かめに、いつか観てみたいと思っています。
コミカライズ
『少年ジャンプ+』で、ミヨカワ将さんによるコミカライズが2019年5月から2021年5月まで連載されました。
まとめ
ゾンビと本格ミステリという、思いもよらない組み合わせ。読んでいるあいだはワクワクが止まらず、真相が気になって一気に読み終えました。
それでも、最後に残ったのはどこか切ない余韻でした。にぎやかな設定の奥に、静かなものが置かれている。そこまで含めて、忘れられない一冊になりました。



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