『偽葬家の一族』感想|奇妙だけど温かいホラー【ネタバレなし】

読書感想

こんにちは、遊華です。今回は、「奇妙だけど温かい」怪異譚、木古おうみさんの『偽葬家の一族』を紹介します。

読み終えた、その第一声

「奇妙だけど……少し、温まる」。読み終えて出てきたのは、怖いでも面白いでもなく、そんな言葉でした。

怪異の話なのに、本を閉じたあとに残っていたのは冷たさではなく、ささやかな温度。ホラーを読んでこんな気持ちになったのは、初めてかもしれません。

今回もネタバレなしで、この不思議な読後感の正体を言葉にしてみます。

どんな話?

天涯孤独の青年・恭二は、山で穴を掘るだけで日当十万円という怪しいバイトに参加し、「ナニカ」によって生き埋めにされてしまいます。死を覚悟したそのとき、穴の上から覗き込んできたのは——喪服姿の男女。初対面のはずなのに、二人は恭二を「弟」と呼びます。

連れて行かれた屋敷で行われていたのは、空の布団と遺影を前にした、死者のいない葬儀。彼ら平阪家は、正体不明の怪異に偽の由来と物語を与え、”非業の死を遂げた故人”として弔い祓う——「偽葬」を生業とする一族でした。恭二は生きるため、この家の「次男」として怪異と向き合うことになります。

つまり、偽物の家族が、偽物の葬式で、本物の怪異を葬る。この一行だけで、もう気になりませんか。

~著者について~

木古おうみ(きふる・おうみ)
神奈川県出身。Web小説サイトで活動し、2022年に『領怪神犯』で第7回カクヨムWeb小説コンテスト〈ホラー部門〉大賞とComicWalker漫画賞をダブル受賞してデビュー。著書に『領怪神犯2』『はぐれ皇子と破国の炎魔 ~龍久国継承戦~』、コミック版『領怪神犯』(漫画:足鷹高也)がある。(KADOKAWA 文芸WEBマガジンより)

読みどころ:受け入れが、”事件”じゃなく”日常”

最初は家族ごっこに戸惑っていた恭二が、偽葬を重ねるうちに、少しずつこの奇妙な一族に馴染んでいく——ここまでなら、疑似家族ものの王道です。でも、この本がいちばん温かいのは、その先でした。

物語の中で、ある真実が明らかになる場面があります(何が、は伏せますね)。普通の物語なら、関係が壊れるか、涙ながらの受け入れシーンになるか、どちらにしても”大事件”になるところ。なのにこの一族は——翌日も、いつも通りに接するんです。誰も宣言しない。誰も騒がない。ただ、同じ食卓と、同じ日常が続いていく。

受け入れるって、劇的な言葉じゃなくて、「変わらないこと」なのかもしれない。その静けさに、じんわりやられました。

ちなみに——この”真実”、勘のいい人なら早い段階で見当がつくかもしれません。でも、大丈夫です。この本の温かさは、驚きで成り立っているわけではないので。薄々わかったまま読み進めても(わたしがそうでした)、いえ、わかっているからこそ、あの静けさがじんわり効いてきます。

そして個人的なMVPは、おばあさんです。怪しげな祖父母世代の中でも、この人の”ある場面”には完全に心を掴まれました。詳しくは言えないので、ぜひ本編で確かめてほしいのですが——偽物の家族のはずなのに、と。きっと同じところで温かくなるはずです。

こんな人におすすめ

  • ホラーは好きだけど、後味の悪さにちょっと疲れている人
  • 疑似家族もの・訳あり一家ものに弱い人
  • 怖さより「奇妙さ」と「人の温度」を味わいたい人

文庫240ページとコンパクトなので、するっと読み切れる長さなのも嬉しいところです。


まとめ

怪異がきっかけで、家族が見つかる。あるいは、家族になる。奇妙だけど、少し温まる——読み終えた今も、その一言のままです。

葬儀から始まる家族の物語なんて、なかなか出会えません。

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