
こんにちは、遊華です。今回は、「倒叙」で描かれる城塚翡翠の第2弾、相沢沙呼さんの『invert 城塚翡翠倒叙集』を紹介します。
話題作『medium 霊媒探偵城塚翡翠』に続く、城塚翡翠シリーズの第2作です。
この記事では、結末やトリックの核心には一切触れず、ネタバレなしでこの本の魅力をお伝えします。前作『medium』を読んで翡翠に魅了された方、倒叙ミステリが好きな方、そして「完璧な犯罪が崩れていく瞬間」を味わいたい方へ向けた感想です。
はじめに
犯人は、最初から分かっている。 それでも私は、ページをめくる手が止まらなかった。 ——さあ、城塚翡翠。今度はあなたが、どう崩してくれるのか。
完璧に見える犯罪を前にしても、不思議と不安はなかった。 「翡翠なら、どうにかするだろう」——そう信じて読み進めた先で、 その鮮やかな手際に、思わず「おお……」と声が漏れた。
invertってどんな本?「倒叙ミステリ」って何?
『invert 城塚翡翠倒叙集』は、前作『medium』に続く城塚翡翠シリーズの第2作。前作を読んだ人ほど「おっ」と思う、ある仕掛けがあります。それは——今回が「倒叙(とうじょ)ミステリ」だということ。
倒叙ミステリとは、最初から犯人が誰なのか、どうやって犯行に及んだのかが分かっているミステリのこと。ドラマでいうと「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」をイメージすると分かりやすいです。読者の興味は「犯人は誰か」ではなく、「完璧に見える犯罪を、探偵がどうやって崩すのか」に向けられます。
ここが、前作『medium』との大きな違い。mediumが「犯人は誰だ?」と最後まで読者を惑わせる物語だったのに対し、invertは真逆。犯人を知った上で、城塚翡翠がその完全犯罪をどう突き崩していくか——その手際を、最初から最後まで味わう一冊です。
相沢沙呼(あいざわ・さこ) 1983年埼玉県生まれ。2009年『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。繊細な筆致で、登場人物たちの心情を描き、ミステリ、青春小説、ライトノベルなど、ジャンルをまたいだ活躍を見せている。『小説の神様』(講談社タイガ)は、読書家たちの心を震わせる青春小説として絶大な支持を受け、実写映画化された。本作で第20回本格ミステリ大賞受賞、「このミステリーがすごい!」2020年版国内編第1位、「本格ミステリ・ベスト10」2020年版国内ランキング第1位、「2019年ベストブック」(Apple Books)2019ベストミステリー、2019年「SRの会ミステリーベスト10」第1位、の5冠を獲得。さらに2020年本屋大賞ノミネート、第41回吉川英治文学新人賞候補となった。(講談社文庫 相沢沙呼「城塚翡翠シリーズ」特設サイトより)
【ネタバレなし】「それが決め手!?」翡翠の手際に唸った
この本の魅力を語るのは、実はすごく難しい。倒叙ミステリだから「犯人は誰?」を隠す必要はないけれど、その代わりに——翡翠が”どこから”完全犯罪を崩すのか、それこそが最大の見どころで、絶対に明かせないから。
だからこれだけ言わせてください。 私が心の中で漏らしたのは、「それが決め手なの!? ……でも、確かにありえるかも」でした。
犯人が完璧に隠したつもりの、ほんの些細な”日常のひとコマ”。誰も気に留めないような、何でもない部分。翡翠は、そこに目をつける。最初は「まさかそんなものが」と驚くのに、説明を聞くと「いや、確かに筋が通っている」と妙に納得してしまう。この”意外なのに腑に落ちる”バランスが、本当に見事なんです。
しかも私は、犯人の粗を探しながら読んでいたわけじゃありません。「翡翠なら、どうにかするだろう」と、すっかり信頼して見守っていただけ。それでも、翡翠が示す”崩し方”は、いつも予想の斜め上にありました。完璧に見えた犯罪が、たった一点から音もなく崩れていく。その手際の鮮やかさに、思わず「おお……」と声が漏れました。
前作『medium』が「最後にドンとひっくり返す」一撃の衝撃だとしたら、invertの快感はもっと静かで、じわじわくる。完全犯罪が綻んでいく過程を、最初から最後まで味わい尽くせる——そういう贅沢な一冊でした。
mediumとinvert、どっちから読む?シリーズの順番
城塚翡翠シリーズを読むなら、刊行順に読むのが断然おすすめです。
- medium 霊媒探偵城塚翡翠(2019年)
- invert 城塚翡翠倒叙集(2021年)
- invert II 覗き窓の死角(2022年)
なぜ順番が大事かというと、『invert』は前作『medium』の結末に触れる形で物語が進むから。実際、本の冒頭にも「この作品にはmediumの結末に触れています。未読の方はご注意ください」という注意書きがあるほどです。つまり、mediumを読まずにinvertから入ると、1作目の大事な部分を先に知ってしまうことに。だからこそ、まだの人は絶対に『medium』から読んでください。
そして、すでに『medium』を読んだ人にこそ、invertは刺さります。前作で城塚翡翠という探偵を知っているからこそ、「あの翡翠が、今度は倒叙で犯人を追い詰める」という構図にワクワクできる。同じ探偵の、まったく違う魅力を味わえるんです。
※3作目『invert II 覗き窓の死角』もあります(こちらの感想は、また改めて)。
※『medium』のネタバレなし感想はこちら

こんな人におすすめ
『invert 城塚翡翠倒叙集』は、こんな人にぜひ読んでほしい一冊です。
- 『medium』を読んで、城塚翡翠に魅了された人(まずはこの人に。前作を知っているほど楽しめます)
- 倒叙ミステリが好きな人(犯人が分かった上で「どう崩すか」を味わうのが好きな人)
- 完璧な犯罪が、一点から綻んでいく快感を味わいたい人
前作のような「最後の大どんでん返し」を期待すると、少し方向性は違います。でも、完全犯罪が静かに崩されていく過程そのものを楽しめる人なら、invertはきっと、前作とはまた違う満足感をくれるはずです。
まとめ
犯人は分かっている。それでも、ページをめくる手が止まらない。 完璧な犯罪が、たった一点から音もなく崩れていく——その瞬間の鮮やかさは、城塚翡翠というこの探偵にしか出せないものでした。
倒叙ミステリの楽しみは、名人の手元をじっと見ているような心地よさにあります。「翡翠なら、どうにかするだろう」——そう信じて見守った先で待っている鮮やかな一手を、あなたもぜひ、特等席で見届けてください。


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