『霧の出る森』感想|わからないから怖い民俗ホラー【ネタバレなし】

嗣人

こんにちは、遊華です。「わからないから怖い」民俗ホラー、嗣人さんの『霧の出る森』を紹介します。

読み終えた、その第一声

「……なにそれ?」

読み終えて、最初に口から出てきたのは、感想ではなく疑問でした。もちろん、最高の意味で。

怖かった。それは間違いない。でもそれ以上に、わからなかった。そして読み終えた今わかるのは、その”わからなさ”こそが、この本のいちばん怖いところだったということです。

今回もネタバレなしで、この読後感の正体をできるだけ言葉にしてみます。

どんな話?

舞台は、福岡の片田舎。かつて信仰の対象だった山を切り拓き、禁足地を集落にした人々がいました。土地の者は言った。——「霧の御山ば見たら贄になる」。

そして現代。何も知らない都会の人間が造った霊園で、また一人、人が消える——。

死を呼ぶ山をめぐる、土俗の怪異譚。各話がゆるやかに繋がっていく連作形式で、ページを進めるほど、この土地の”何か”の輪郭が少しずつ濃くなっていきます。ただし——最後まで、全部は見せてもらえません。

~著者について~

嗣人
熊本県荒尾市出身、福岡県在住。温泉県にある大学の文学部史学科を卒業。在学中は民俗学研究室に所属。2010年よりWeb上で夜行堂奇譚を執筆中。妻と娘2人と暮らす。著作に『夜行堂奇譚』『木山千景ノ怪顧録』『穂束栞は夜を視る』『カナエトメイ 怪奇専門探偵事務所』『天神さまの花いちもんめ』(産業編集センター)、『文豪は鬼子と綴る』(竹書房)など。(BOOKデータベースより)

読みどころ:「見てはいけない」に、囲まれる

この本の怖さを一言でいうと、「見てはいけないものに、囲まれている」感覚です。

見たら贄になる、と言われている山。霧の中に、こちらをじっと見ている”誰か”がいる——のに、次の瞬間にはいない。見る/見られるの主導権が、最初からこちらにないんです。

そして何より怖いのが、土地の理屈が、最後まで翻訳されないこと。村の中では、きっと筋が通っている。しきたりには、きっと意味がある。でも、よそ者である読者には、その”筋”が最後まで手渡されない。普通のホラーなら真相がわかって「そういうことか」と着地するところを、この本は「なにそれ」のまま、霧の中に置き去りにしてくる。

説明されないから、怖い。わからないまま終わるから、ずっと残る。読後、しばらく耳の奥がしんとするタイプの一冊でした。

同じ作家の、別の顔

じつは嗣人さんの本を読むのは、『文豪は鬼子と綴る』シリーズに続いて3冊目でした。

読み比べて面白かったのが、舞台が同じ福岡だということ。同じ土地を書いているのに、温度がまるで違うんです。鬼子のほうは、怪異のそばにほのかな温かみがあった。人と人(と、人ならざるもの)の関係に、小さな灯りがともっていた。でも『霧の出る森』は——静かで、寒々しい。灯りを消した嗣人さん、という感じ。

同じ作家が、同じ土地で、灯りのある怪異と、灯りのない怪異を書き分けている。それが3冊目の発見でした。

こんな人におすすめ

  • 因習・禁足地・土着信仰……「田舎の閉じた土地」系ホラーが好きな人
  • 全部説明されるより、わからなさが残る怖さが好きな人
  • 『文豪は鬼子と綴る』や『夜行堂奇譚』で、嗣人さんの別の顔が見たくなった人

連作形式なので、夜に一話ずつ読み進めるのにも合う一冊です。

まとめ

読み終えて出てきたのは、感想ではなく疑問でした。そしてその疑問は、たぶんこの先も解けません。解けないまま、霧みたいに残り続ける——そういう怖さを浴びたい夜に、どうぞ。

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